それまで見たことのない美しさでした。
細い帯状のフロントマスクは、中央にSilviaのエンブレムを配し、両脇に当時出始めのプロジェクターランプ4灯を並べた端正な造形。
流れるようなサイドビュー。
誰もが目を惹かれるまさに“アートフォース”です。

人気車で中古相場は高かったです。
カーセンサー(当時は雑誌でした)を読み漁り、中古車屋を歩き回り、横浜の三菱ディーラーで掘り出し物を見つけました。
S13シルビア前期型Q’s
63年式25000キロ
ツインカム1800ccエンジンのCA18DEを積んだモデルです。
5年落ちで、95万円のお手頃プライスでした。
相場より30万円くらい安い印象でしたが、問題は全く無い良玉でした。
日産でなく、他社ディーラーだったというのがミソですね。
おそらくディーラーという性質上、他社の車は並べておくより、早くさばきたいものなのだと思われます。

走りに関しては、NAエンジンなのでパワーはそこそこ、FRレイアウトでハンドリングはまあ良好、他の諸性能も普通で、スポーツカーではありません。
カッコよさ、美しさ重視のスペシャリティカーです。
当時は、スペシャリティカーというカテゴリが確固として存在して、その中心的車種でした。
寝そべるような形で、コクピットに収まるデザインは未来感すら感じ、インパネやコンソールのデザインも魅惑的で気分を高揚させ、乗っていてワクワクするクルマでした。
1100kg代の軽い車重と相まって、遅いなりにもスポーティに走れば、それはなかなか楽しいものでした。
リラックスしてドライビングできるので、下手な私には、なまじの高性能車よりも走る歓びを感じることが出来たのだと思います。
この頃の新鮮な感動を失って久しいです。
戻れるならこの頃がいいですね。

ある日、十字路で信号待ちしていると、四方向すべての先頭がシルビアだったことがありました。
とにかくよく売れた車で、絶対数が多かったのです。
しょっちゅう同じ車種とすれ違う、これで食傷気味になってしまい、乗り替えを考えるようになりました。
今でも通用する、古さを感じさせない“アートフォース”なデザインなので…
もし、あのまま乗っていれば、その後数百万の金を使わずに、今でもあの美しいクルマに乗れていたのかなとも思います。
思い出深い一台です。
