中森明菜の考察をしようと、デビュー曲の「スローモーション」を見直してみました。
まんまるのベビーフェイスながら、堂々とした風格すら漂う歌いっぷり、別格の歌唱力、デビュー曲とは信じられない完成度の高さに改めて驚きました。
「スローモーション」は明菜の中で1番好きな曲なのですが、
当時、この娘を見逃していた自分が不甲斐ないです。
花の’82年組の中で、5月デビューと後発だったこと。
アイドル歌手の実績が薄い、まだ弱小事務所だった研音で、売り出しが比較的地味だったこと。
私の視界にすら入って来ないくらいですから、当初は売れませんでした。
が、
この逸材は、セカンドシングル「少女A」で早くも大衆に見つかります。
当然と言えば当然、売れるべくして売れ始めました。
実際、「少女A」の楽曲及びその歌唱に於けるインパクトは、強烈なものでした。
社会に対してちょっと拗ねた売野雅勇の歌詩に、いわゆる歌謡曲らしい曲調でサビまでぐいぐいと高揚してくる曲。
これに中森明菜の風貌がベストマッチしました。
歌詩に合わせて少し反抗的な表情をつくる様とそれに対照するあどけない笑顔は、最早芸術です。
この美しさは、特にポニーテールで顕著でした。
ポスト山口百恵と言われて、松田聖子は活躍していましたが、音楽性の路線は全く別のものでした。
ここに本家山口百恵よりもスケールの大きい後継者が現れた形です。
この曲「少女A」自体は、数字的には30万枚くらいしか売れませんでしたが、輝かしい明菜伝説の始まりでした。
この後、
「セカンドラブ」で70万枚のセールスを記録すると、トップアイドルの地位を確固たるものにして行きました。
デビューから清純路線と不良路線の楽曲を交互に出していった彼女ですが、中森明菜のアイドルとしての魅力は(特に男目線では)、不良路線の方にかなり比重が大きいと感じます。
大人びた表情のあとに見せる少女性を残す色気、
セクシーな口もとふっくらした頬、
背徳的とも言えるような危うい魅力がありました。
また、初期のアルバム3部作「プロローグ」「バリエーション」「ファンタジー」には特に多かったのですが、
所々ちりばめられた、ちょっとエッチな歌詩表現も印象的でした。
中森明菜には、その容姿また衣装からはもちろんのこと、歌詩の面からも、少なからずセックスシンボル的側面がありました。
そんな魅力がピークに達したのが「1/2の神話」でしょう。
この頃の明菜の色気は匂い立っていました。
不世出の、唯一無二の存在だったと思います。
この後は年齢を重ねると共に、危うい色気は薄まっていきました。
この視点から見ると、明菜のアイドル歌手生命は長く見て「十戒(1984)」辺りまでだったと思います。
私は、この後は惰性でフォローしていた気がします。
アイドル歌手から“アイドル”を取った“歌手”として、「北ウイング」辺りから強まって来ていたアーティスト性を前面に出した活動に変わっていったと思います。
私はフェードアウトして行きました。
「アイドル」中森明菜は、稀有な、貴い、魅惑の存在でした。