海への憧憬と、松田聖子

人生
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海なし県に住んでいます。
滅多にホンモノの海に接する機会はありません。
故にたまに、直接海を見かけた時の喜びはひとしおです。
海を眺めるだけで過ごす時間は、至福で大切な時となります。

生まれてから高校卒業までは、転校こそ何度かあったものの、いずれも海の遠くない所で暮らせていました。
近くに海がある、すぐ海を見に行ける幸せを、当時は知らずに過ごしてしまっていたのです。

「失う時初めて眩しかった時を知るの」と聖子ちゃんも「制服」の中で歌った通りで、海が掛け替えのない存在だと気づいたのは、海をなかなか見られなくなってからのことでした。

今、海に呼ばれるかのように「クルマを飛ばして」海に会いに行くことは、しばしばです。
「海からあなたに電話をかけて、今すぐ来てよとワガママ言おう」と「赤い靴のバレリーナ」の中で聖子が歌っているように。


少し理屈を述べましたが、
実際のところ、
私の海への憧れの根底には松田聖子が、ひいては松本隆の詩の世界が、厳然と存在しています。

歌詩に出てくるマイアミ、セイシェル、マウイ、カアナパリ…
名前も知らない海、南の島たち
松田聖子の歌声が、多感な少年のゆかしい気持ちを掻き立てました。

思春期の鬱々とした気持ちで何も動き出せずにいる時も、
松本隆の紡ぎ出す情景は、時には聖子と一緒に、私を旅させてくれました。
学校に部活に追われ、お金も時間も無かったあの頃、
現実から離れて心を癒せるのは、松田聖子のLPレコードを聴いて、その世界観を彷徨っている時だけでした。
そして、その世界観は、私の心に深く深く刻まれていったのです。


海辺の情景が特に印象的なのが、
Pineapple』の「SUNSET BEACH」
TinkerBell』の「いそしぎの島」と「Sleeping Beauty」
です。
中でも「SUNSET BEACH」の人が帰った海辺の表現や、そこで起こるエピソードの洗練度は秀逸です。
見たこともない情景なのに、何度も経験していて、ふと思い出すのです。


幸か不幸か、そんな風に、狭い心の中で醸成されてしまった広大な世界観。
松本隆が紡ぎ出し松田聖子が語りべとなった壮大なる戯曲の中を、これからも生きて行きます。

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