1981年7月21日。
一曲の、誤解を恐れず言ってみれば、“地味な”シングルレコードが発売されました。
彼女のこれまでのシングル作品5作、派手なサビで一度聴いたら忘れない、強烈な印象を残す曲たちとは一線を画します。
静かな、やさしい曲でした。
松田聖子シングル第6作「白いパラソル」です。
作詩 松本隆
作曲 財津和夫
冒頭、「お願いよ正直な気持ちだけ聞かせて」のくだりから、控えめな奥ゆかしい主人公の人となりがうかがわれます。
何処にでもいるの女の子の、普通な恋を歌っている曲です。
当時既に、彼女は人気歌手としての立場を確立し、絶大な人気を得ていました。
ところが、その一方で、
松田聖子を好きだと人に言うのは、少し恥ずかしさを伴うものだったのです。
歌謡曲という言葉がありましたが、彼女のそれまでの歌はまさにザ歌謡曲で、耳には強く残るものの、やや上品さを欠くものでした。
また、
かわい子ぶりっ子など人気者故の数々の中傷があったり、女性にあまり好かれない空気がありました。
それらを変えてくれたのがこの一曲だと思います。
松田聖子の女性人気の火を、その導火線を灯してくれました。
当時で言うニューミュージック系の作家陣を起用し始めて、楽曲に品格が感じられるようになっていきます。
そうして、
この曲からだんだんと松田聖子好きを公言することは、恥ずかしいことではなくなってゆきました。
歌詩の世界は秀逸です。
これまで本サイトでずっと書いて来ました、松本隆なのだから当然です。
実はこの作品から、松本隆の世界が始まりました。
決定的、運命的切り替えでした。
「心は砂時計よ」に代表される繊細な詩的表現で揺れ動く乙女心をつづります。
多くの人が共感する松田聖子の歌う詩の世界が醸成されていきました。
前作「夏の扉」から起用された作曲 財津和夫の存在も外せません。
素朴でありながらメロディアスで、自然に耳に馴染んで来る優しい曲調。
脱歌謡曲そしてニューミュージック化に彼が大きく貢献していることは間違いのないところです。
偶然か必然か…
様々な事象が重なって生まれたこの曲。
私にとっても松田聖子を感じる上での転機となりました。
派手さは無いが心の深いところにに残る。
そして、気づかないうちについ口ずさんでしまう。
数ある松田聖子シングル曲の中でも、実は人気の高い「白いパラソル」。
名曲です。